伊藤ちゃんは息子だと思われたのか疑惑





バスに乗り込んできた、小学校にあがるかあがらないかくらいの男の子が、おばあちゃんの手を引いて
「ぼく、おばあちゃんと一緒に座る。ね、一緒に座ろうね、おばあちゃん」
と言っていた。
おばあちゃんは死んでもいいってくらいうれしそうな顔で、何も発せず男児にほほ笑んでいたけれど、じっさいに座ったかどうかはそのまま後ろに行ってしまったので確認していない。

このバスには毎日乗っているけれど、その日、坂道で聞きなれない異音がした。
なんというかこれが、うまく表現できないのだけど、グギギギギギ…グガアアアアアーーーという感じの音で、「只今、がんばって坂を登っております!」と、バスの意気込みのような音なのだ。
ふだんからこんな音がしているのに気付かなかっただけかな? と思っていたら、先ほどの男の子が
「がんばれー! バスー!」
と言ったので、あ、やっぱりがんばっている音に聞こえるんだと思い安堵したら、即座におかあさんが
「(バスではなくて)運転手さんでしょ」
と言う。
男の子の表情は見えなかったけれど、はい、でもバスががんばってるように聞こえたんですよ……と少しいじけた気分になった。

ところで、"死んでもいいってくらいの表情"というのは余計でした。
心優しき男の子のためにも、おばあちゃんには長生きして欲しい。