ハエの分際 人の分際

ハエの分際 人の分際

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子育て中、埼玉に住んでいた頃、人や家畜以外の生き物がそこらへんにうじゃうじゃいた。我が家に不法侵入し、ハエのぶんざいで不純異性行為をくり返すカップルもあらわれ、私はとりたてて飢えていたわけではないのだけれど、そのたびに撲殺あるいは圧迫死させることに躍起になっていた。けっこうマジだった。


いざ東京に戻ってみると、虫たちをコトンと目にしなくなった。なので、どこからか迷い込んできたハエにさえ愛着がわいてしまう。調子がいいなと思うけれど、絶滅危惧種になれば突如騒ぎだすのと同じ心理なのだからべつにいいだろう。
わざわざエサを置くようなマネはきちがいじみているのでしないけれども、三角コーナーの生ゴミをあえて切らさない気配りは欠かさなかった。

一週間くらいたった頃には、どうもそのハエが私になついているような気がする。しまいにはトイレにもついてくる始末だ。そして目の前の壁でおとなしく待機し、私の用がおわるとまたいっしょに部屋に戻る。ような気がする。とにかく、ような気がしてばかりなのだ。


先日、家に戻ると、いつも大歓迎してくれるはずのハエの姿がない。
息子に訊ねると
「あのハエ、消えたよ。神隠し。ミラクル」
と言っている。
どうやら彼は、ウザいハエを抹殺しようとちチリ紙を使いバシンと叩いたようだ。たしかに叩いたのだが消えていた、ミラクルが起きたと言い張っている。
ハエの俊敏さに関してはかつてのセックス蠅のときに経験しているので、私は生きていると確信。とっさに出た言葉がこれである。
「やめてよ! 私あのハエ飼ってんだから!」
言った私がおどろいた。え。飼ってんの?

息子も「ハイ?」というような顔をしている。"でまかせ"は"でまかせ"を呼びさらなる"でまかせ"がクチに出た。
「あれは太郎って名前なんだよ。もうぜったいやめてよね! 太郎ちゃん、太郎ちゃーん」と呼ぶと、知ってか知らずか太郎は私と息子の間をブイーンとすり抜けていった。
ややかっこよかった。

 
……と、このようなハエ物語を以前書いたのですが、昨今はハエさえ寄りつかなくなりました。