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Weekly Teinou 蜂 WomanにUPした記事内テキスト抜粋Blog

「先にそっちで研究してて」吉田正高さんの、お別れじゃない会

先月の31日、吉田先生ことオタク界の暴走王・江戸栖方こと吉田正高さんが、一足先に遠いところにいきました。

f:id:asobi:20180409180401j:plainPhoto:川瀬一絵

オタク、歴史学者、教育者、蒐集家、奇人・変人など、様々な顔を持ちますが、私にとっては「慈愛に満ちた人」です。

てんで話の通じない私やオカンのような者にも、うちの息子などの子供にも、どんな人であれ分け隔てなく自然に接してくれる印象が強い。

上の画像は、うちの実家に遊びにきてくれたときに一絵が撮ってくれた家族写真(まだ三人でしたね)です。無上のオタクふたりだというのに、映画の広告のような奇跡の一枚。首から提げたそこらへんのタオルが光り輝いていませんか……。

お似合いとかいう生半可なものではなくて、このふたりでしかあり得ない次元の夫婦です。世界中どこを探しても吉田さんの妻にこさささこ以外は考えられないし、ささこの旦那に吉田さん以外はない。つかムリ、そういうふたりということです。

彼のSNSでのノロケは界隈で有名ですが、「こんなオタクでも、結婚できてしあわせになれるということを、オタクのみんなに知ってもらっていたんだよ。希望が持てるじゃない」と言っていて、ノロケが希望になり得るんだ…へぇ…と、ちょっとわけがわからなかったことを覚えています。でも、今ならわかる。ああそうだよね……そうやって生粋のオタクの道導として24時間活動してるんだよねって。

こんなオタクと吉田さんは言いましたが、そんじょそこらのオタクとは一線を画します。今、一概にオタクといっても「いい意味で」使われることが多いけれど、それに背反するかのごとく、吉田さんは、ダサい、典型的な、時代が少しちがえば顔をしかめられてしまうような純一無雑のオタク。あえて自ら体現しているのかもしれません。

黒木あるじさんが新聞に寄稿し、彼を称した「知の巨人」。まさにそれでした。



azumanosさんのTwitterから(画像クリックで拡大)

たとえば、私が何かの特撮ヒーローを思い出そうとして
「アレが好きだったんだよねー。なんかさー、星みたいな形の○色のベルトしてて、○○から飛び出してスーツは○色だっけなあ……」
と曖昧すぎにもほどがあるたわ言を言っても、
「あ、それね、○○じゃない?」
と、スマホiPadに保存してある大量のデータを瞬時に操りそこから動画を出してきて見せてくれる。
「このシーンは○年○月に放送された『ナントカナントカ』の回なんだけど、これがねーいいんだよねー。ここここ! 見てホラッ! これがもうかっこいいんだよー。この次に○○するから見てて、見ててよ。ホラッホラッ! ね」
と、「ね」の瞬間だけ一時停止のドヤ顔を一瞬したかと思うと、直後にはグレートランチャーぶっ放したように派生した話がドドドドドーと進んでいく。
私なんかはたいしたキョーミもないのに「好き」とか言っちゃったもんだから、聞かないわけにもいかず、もう吉田さんの前ではぜったいにアニメや特撮のキャラクターを安易に好きとか言わないぞ……言ってなるものか…と思ったものです。


コミケだっけな。ささこ手書きのペアTで見せつけていました。

昨日、告別式に参列してきました。
別れの挨拶では、早稲田や東大など日本教育者トップの方々が参列、挨拶する中で、「オタク」「触手」「ロリコン」の言葉がマイクを通して何度も連呼され、しかも全員が別れの挨拶にもかかわらず「別れ」を言わない。
「そっちで先に研究していてくれ」
「触手の地獄もたまに見てきて」
「天国にオタク仲間を増やしておいて」
というメッセージを送る、『ちょっと先にそっちで待ってて』な会でした。

ありったけの愛情をすべてしぼりだし、妻と子供たちに全力でもってささげていた吉田さん。しかも毎日です。
全身全霊、全力で愛されたことのある人は、みんな、大丈夫なので。しっかり血となり肉となり糧として生きることができるので。まだ私にはどこなのかはわからないけれど、"そっち"で安心してバズーカみたいに喋りまくって、研究して、収集して、コンテンツを広めていてください。


式後。もうこないかもしれないな……と思いながら歩いた山形の道。

かつて、崩れて泣いてしまったとき、
「泣かないでよ、土屋さん……」
と、背中に手をあててくれたことがありました。
その声はとても弱弱しくて力強くて、泣きたくてでも泣かなくて、切羽詰ってるのに他人の心配をするやさしさにあふれていた。こういうことを私が言うのも本当におかしいのだけど、小さな男の子が、二本の足をピンと踏んばらせ、倒れないように倒れないようにと必死にがんばっているような声に聞こえてやっと我に返った記憶があります。

泣いたらまたあの声が聞こえてきてしまう。
反芻しながら、祭儀場の中で私は泣かなかった。はず。
みなさんが言うように、お別れではないし、吉田さんはとても幸せだけど、でもやっぱり会いたいときに会えないことはとてもさびしい。さびしいことにまちがいはないのでさびしいです。

さびしいけれども、ささこを通じて吉田さんと知りあえて、話せて、本当の「知」「好奇心」とはどういうことなのか、少しだけでも垣間見ることが出来て、よかった。
吉田さん。本当に、どうもありがとう。



式場で、吉田さんのコレクションのほんの一部のアニメや特撮、歌手の映像などがバンバン流れたんだけど、冒頭がB.B.の凱旋コンサートの名シーンだった。

 

当日、待ち時間に血迷って蔵王温泉に行ってしまった私の苦行は本家のハチに載せているので、興味があればご一読ください。

Weekly Teinou 蜂 Woman: 「先にそっちで研究してて」吉田正高さんの、お別れじゃない会