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Weekly Teinou 蜂 WomanにUPした記事内テキスト抜粋Blog

【ち】《 遅刻 》「わたし、夢を見ているのかしら」

【ち】《 遅刻 》
 小学校の時から遅刻魔だった。
 月曜は、朝礼のため校庭に整列している生徒たちの前を堂々と通り、校長先生を唖然とさせていたそうだが、そんな光景も高学年になるころには恒例になった。



 2009年の初夏、一度だけ、時間通りに待ち合わせ場所に行ったことがある。その時のコレステロール伊藤の反応が尋常ではなかった。
 みなが集合して、電車に乗り込んでからの30分間、ずーっとその件(私が時間を守った件)について
「わたし、夢を見ているのかしら」
と何度も言う。あげくの果てには逆ギレのように
「なんか(アソビの)顔が変わったよねー」
「老けた(一ヶ月くらい会ってないだけで)」
「髪の質も悪いんじゃないの」
「ふつーになった」
「更年期じゃないかしら」
と、とにかく遅刻をしなかった私のことが気に入らない、許せない、断じてけしからん様子なのだ。ふだん一番文句を言うのも彼女だ。どっちにしても言われるのか!?
 そのしつこさに閉口しながらも、彼女に痛々しさと哀れみを感じ
「ああもうわかったよ、遅刻すればいいんだろう。遅刻すれば」
と投げやりな気持ちになると同時に、わたしが遅れないことがそんなに珍しいことなのか?もしかしてセーフ初体験なのか?と必死に過去を振り返ったが、ついに思い出すことはなかった。
 当日は友人Mの納骨の日だった。
 わたしは、今後一生、友人を落胆させないために遅刻をする、しまくることをMの墓前で誓ったのだった。

 対抗するわけではないが、わたしより上をいく遅刻魔、それが息子のオンだ。
 小学校の時は起床5時でいっさい遅刻をしなかった。親バカながら
「この子はわたしに似ないでえらいなー」
と思っていたが、中学の時に遅刻魔としての頭角を現した。
 何度起こそうと起きない。やっと起きたと思ったら、のんびりと朝食を食べ、シャワーを浴び、いってきまあすと出ていくのだった。高校では、そのうえにコンビニでのうのうと立ち読みなどして登校するものだから、とうとう『あと1回遅刻すれば退学』というところまできてしまった。わたしたち身内と友人らで、もうこうなったら校門前で寝袋宿泊するしかないというとこまで考えたので、退学にならなかったのは、奇跡と言っても過言ではないだろう。
 わたしはオンが、『慌てる・焦る・急ぐ』ところを見たことがない。今では遅刻どころか、来るか来ないかさえわからないので、誰もオンのことはアテにしなくなっている。あいかわらず周囲に甘やかされてばかりだ。こんなことでこの世を渡っていけるのか心配な面もある。
 アテにされないことはまったくさびしいことだが、本人はいたって楽に生きている。そのうち痛い目に合うといいが、親が親だけにきびしく叱れないところがつらいところだ。彼もまた、いつかまともな時間に登場した時、友だちに驚愕され、執拗に文句を言われることだろう。ザマーミロ!
 「わたし、夢を見ているのかしら」
 「わたし、夢を見ているのかしら」
 「わたし、夢を見ているのかしら」
 ほんと、しつこかったなーアレは。


本日のオススメ本ですね。大人にもこどもにも。