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Weekly Teinou 蜂 WomanにUPした記事内テキスト抜粋Blog

冷蔵庫が高温になると、Twitter社から安否確認のメールが届く 

 

某日

新入りの冷蔵庫がまったく気まぐれでほとほと困り果てている。

8月の末に我が家にきてからというもの、まともに働いたことがない。
おまえはーーー! 食品を冷やすのが仕事でしょーがーー! と檄を飛ばしたいところだが、おそらく言葉が通じないのでそんなムダなことはしない。

しかもだ、どうせならまったく冷えなければいいのに、思わせぶりに0度近くになったり15度になったりと温度差がハンパないのである。
一度はメーカーが点検にくる予定だったのだけど、前日夜と当日朝にいきなり冷えだしたのでうっかり「様子を見る」ことにしてしまったのだった。

その後も冷蔵庫は順調に温度差ライフを遂行しているので、今度こそはとメーカーに再度連絡をしたけれど、どうやら繁忙期らしく決戦まであと一週間もある。



この一ヶ月のあいだ、廃棄したタコは3つ、生ハムもまだまだ賞味期限があるにもかかわらず、見事な土色に近づいてきたため錯乱して捨てた。もはやナマモノなど恐ろしくて買えないじゃないか。でもタコだけは買っている。

こうなったら点検だ修理だとナメたマネにでてもらっては困る、どう考えても初期不良なので交換を願いでた。
敵はおそらく百戦錬磨なのだろう、「まずは点検からでないと話が進まない、どうしても交換したいのなら購入店に問い合わせてはいかが? でも80パーくらいはムリだと思うわよ」的なメールがきた。とにかく解せない。釈然としないのだけど、もはやわたしにできることは点検日を待つこと。これしかない。まさか泣き寝入りするのかもな……高額なMacとか、車とか、物件とかでなくてよかった……と思ったけど、いや、よかったじゃあないんだよ。とにかく毎日混乱している。

点検当日、0度になろうが氷点下になろうが、なにがなんでも交換か修理をしてもらうために証拠記録をつけ始めた。いちいちスマホで温度計の写真まで撮っている周到さだ。

だいたい朝は0度近く、帰宅後数回でも開閉すると、一気に10度超えたりする。そもそもうちは料理をしないし、ほとんど家にいないのだからふつうの家庭だったらさぞかし高温になるんだろうとお察しする。同志たちと被害者の会を発起してこの苦しみを分かち合いたい……。

それにしても、最低でもあと一週間、わたしはこの容姿だけはイケてる冷蔵庫と対峙しなければならない。わたしが苦手とする細心の注意を払いながら冷蔵庫に関わっていくのはかなりの屈辱だ。精神がボロボロになっていく。

冷気が逃げて温度が上昇したらまたタコが腐敗してしまうので、腕がやっと1本入るくらいしかドアを開けない。温度計を確認するときなどは、やっと目視できるくらい、コソ泥のようにそーっと開けて盗み見てからしずかに閉める。

わたしは人に気を使わないタチだけど、まさかここまで冷蔵庫の機嫌をとる日がこようとは思わなかった。

こんなに冷蔵庫の顔色を伺っているにも関わらず、昨日はとうとう18度になり我が家のギネスを記録した。
もはや棚……とはよく言ってくれた。もはや棚だし、もはや箱だし、わたしの神経を消耗させる苛立たせボックスである。他人が宇宙旅行を企画している令和の今、まさか冷えない冷蔵庫にここまで苦しめられるとは……。



あまりに翻弄されつづけて、それでなくても怪しい頭がさらにおかしくなっていったのかもしれない。Twitter社から心配のメールが送られてきた。

そうだった。
ヤツが到着して10日後にはかなり疲弊して
「死んだほうがマシ。冷蔵庫に頭突っ込んで死にたい」
などとツイートしたんだった。

それにしても、この世には親切な方がいるものである。親切な人、都市伝説じゃなかった。
けれどもどうせなら、命の心配より冷蔵庫を直してもらいたい。

Twitter社からきたメールは、こんなテキストで〆られていた。

あなたには力になってくれる人がいます。
ひとりで悩まないでください。 
ぜひご相談ください。

いいのかな……。
ありがたいですね。