死にたい夜、ガムをどんどん飲んでしまえ 爪切男初単行本の感想



このバックが、1番サマになってる気がした

いっしょに暮らした6年間を、「時間の無駄だったね。マジで」と別れの手紙に書いた女と、それをまるっと1冊の宝物にした男の物語です。

アスカちゃんは、キュートで柔弱で下品で崇高なミューズ。
彼女の研ぎ澄まされた本能やカンは、彼が思っているよりもずっと、実はかなり上物だと思います。

そして、爪切男がペットのアサリにみせる異常な執着は、彼のギリギリな精神と深すぎる愛情が叩きつけられてるような感じで私に襲いかかってきて、このシーン、おかしいやらかわいそうやらかわいいやらで何度も読み返しました。私にとってのクライマックスです。アホだろ。



いつだったかカラオケの話なったとき、彼が「私は(相手に失礼だから)ぜったいにカラオケ中にトイレも行かないし、ずっと手を叩いている」というのを聞いて、そんなおそろしいことされるくらいならぜったい一緒に行かないぞ……と思ったものです。
でも今ならそれがわかる。ああ、そういう、むやみな武士道、持ってるよね……と。

会った瞬間、彼の胸板や背中をバチバチ叩いて(恰幅のいい男を見るとつい叩いてしまう)しまい、「そんな親しい間柄ではないでしょう」とお小言をちょうだいしたこともありました。私の短所であり長所でもある、つい誰にでも10年来のような対応をしてしまう性質。
そのときもハッとしたのですが、この一冊で、なんだかあのときの「間柄」というコトバがやっと納得できた。彼はきっと、大切な間柄に対しては、尋常ならざる愛情をこれでもかこれでもかとぶちまけるんじゃないか、見返りとかいっさい求めない、無償の愛、アガペーです。

人生で一度くらい、家族や親族からではなく異性に、こんなふうに愛されたいものです。それだけで、別れたあとも、しっかりと地に足をつけてあたたかい気持ちで歩いていけるような気がします。「気がする」と言うのは、もちろん私にはそんな経験はないわけで。初対面に近い男子の背中をバチバチ叩き、間柄をブチ壊すような女には、これから先もそんな機会はめぐってこないでしょーねぇ……。

過愛情を浴びるほど受けたアスカちゃんはもちろん、出会った女の人たちは誰も彼もとても魅力的でした。女を崇める爪切男フィルターもあると思いますが、みなさんも、彼に、長さと深さの差はあるにせよ、その時々でしっかり彼から愛を受けとっているからだはないでしょうか……。知らんけど。

これからももっと、愛をバラまいて、バラまかれて、よい相手としあわせになれますように。アスカちゃんほどのパワーで祈ってはいないけど、このおばさんも多少は祈らせてください。それくらい、いいでしょう。それくらいの間柄でしょーが!




この本持って、新宿のいろいろなところを彷徨った私の母性をホメてくれ。

そういえば読後感、いろいろなものが脳内浮遊しましたけども
「『愛は勝つ』ってウソだよなあ……」
ってこともそのひとつ。
あれね、どうだろうね、強靭で膨大で深い気持ちが勝つとは限らない。でも勝ち負けってなんだろう? 勝負でもないしね……という、やや哲学的なことまで思考がもっていかれる不思議な本でした。

で、なによりも言いたいのは、ガム飲み続けてよかった。ゴックンゴックンバカみたいに飲み続けてよかった。本当によかった。これからもずっと、飲み続けていこうね。ってことです。むしろこれだけを言いたい。


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