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Weekly Teinou 蜂 WomanにUPした記事内テキスト抜粋Blog

【ね】寝る ヤなことあったら寝てしまえっ!

【ね】寝る

寝ることは得意だが、起きることは苦手だ。

(via This Puppy And Baby Are The Most Adorable Nap Time Pals)

なんの防衛本能かしらないけれども、イヤなことがあると寝てしまうという妙な奇病(クセ)をわたしは持っている。
あっ! やっぱりわたしはイヤなことをしたり聞いたりすると眠っちゃうんだ!
と確信したのは、息子のオンに説教をしていたときのことだった。
差し向かいで晩ごはんを食べながら、なにやら滔々と話しつつも、心中では、イヤだな〜こんな説教したくないな〜と思っていた。そのうちにカクンと寝てしまった。寝オチにもほどがある。
起きたのは深夜2時くらい。
右手にお茶碗、左手にお箸を持ったまま、座位で眠りこけていた自分に、一瞬なにが起こったのかわからないほどだった。
テーブルの上には食べかけの干からびた料理が並んでいて、肝心のオンはもう布団をかぶっていた。
え。え? マジー! ラッキー! と思ったにちがいない。わたしを起こさないよう、音を立てずに細心の注意をはらいつつ布団を持ち出したであろう彼の姿を想像すると、おかしくておかしくて笑いが止まらなかった。
今考えてみれば、食事のさなかに目の前の人間がトートツに寝てしまったら、気を失ったのではないかと心配するのがフツーだろうに、それよりも説教がいきなり止んだことのよろこびで、彼はそれどころではなかったのだと思う。

それ以前にも、オカンの長〜い話を聞いていると、すぐに寝てしまう自分が不思議でならなかった。居眠り病(ナルコレプシー)かと疑ったりもしたけれど、どちらかというと良いようにとっていて、子宮の中にいたころの郷愁がそうさせるのではないかと思っていた。そばにいれば叩き起こされるのだが、電話ともなると当分のあいだ、オカンは気付かずに話しまくっていた。相槌など打たなくても、自分の話を聞いてくれさえすればいいのである。そのうち大声で
「聞いてるのっ!? 寝てるんじゃないでしょうね!」
と叫ばれるので、ハッと目覚めるのだが、一度だけ受話器をソファの下に落としたまま熟睡していたことがある。そのときは、わたしが倒れたと思ったらしく、うちの隣宅に電話をして、
「アソビが電話の途中で倒れたから見てきてほしい」
と大騒ぎになった。隣人と、向かいの住人が血相を変えて
「土屋さんっ!土屋さんっ!」
と起こしにきたときも、何が起こったのか飲み込むのに時間がかかった。
けっきょくオカンの長い話を聞きたくないという逃避現象であって、子宮回帰願望でもなんでもなかった。野生の本能だとしたらあまりにも危機管理ができていない。生きるための知恵とでもいうべきか。うん、それに近い。

昼寝 (by asobitsuchiya)
佐渡の小料理屋の前にて

アルコールを飲むと、バスの停留所だろうが公園のベンチであろうが寝てしまう。放浪時代はそれこそいろんな場所で寝た。それなりに『寝』に関するエピソードはあるのだが、起きた時に一番印象に残っているのは高校時代のことだ。
授業中、どうしても横になって寝たくなり、後ろの方へ行き、学生鞄を枕にして完全な就寝体制をとっていたときのことだった。教室内のざわめきで目覚めると、真っ黒な巨人が、わたしをまたいで仁王立ちになっていた。あの時の驚きたるや。夢ではないかと疑ったほどだ。
巨人は家庭科の先生だった。逆光で影になり、一瞬真っ黒に見えていただけのことだったのだが、友人らの話によると、先生は握ったこぶしを震えさせつつ、わたしの寝顔をしばらくのあいだ見ていたらしい。わたしは交通事故にあった人のように、クラスメートたちに取り囲まれながら目を覚まし、巨人を目撃したのだった。
先生にはほかの件でも怒りをかい、夏休み中にオカンが呼びだされたことがあるのだが、新学期になってみたら彼女は心臓発作で亡くなっていた。
「教師生活を長くやってきましたが、こんなことは前代未聞です! 寿命が縮まりました!」
の言葉がわたしに重くのしかかった……と思うでしょうが、実はそうでもなく、ああ~死んじゃったのか~くらいの思いしかなかったです。友人らからは『殺人事件完全犯罪』と言われている。若さってこういうもんなのかな。あの時はすみませんでした。渡辺先生、どうか成仏して下さいね。わたしは今も、たくさんのところで寝ています。


本日のオススメ本
眠り病(ナルコレプシー)を患っていた色川先生の絶筆となった小説
 
こちらのコラムは本家ハチの転載になります。
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